家事には終わりがありませんが、中でも私が最も苦手としていたのが、ユニットバスの排水溝掃除でした。あの独特のヌメリと臭い、そして絡みついた髪の毛。考えるだけで気が重くなり、ついつい後回しにしてしまっていました。しかし、そんな私の怠慢をあざ笑うかのように、ある日突然、排水溝は沈黙しました。水が全く流れなくなり、洗い場はまるで小さな池のようになってしまったのです。市販のクリーナーを一本使い切っても効果はなく、私は自力でこの「見えない敵」と対峙することを決意しました。まず、排水口の蓋を開け、ヘアキャッチャーを取り出しました。そこには案の定、ヘドロのような汚れがびっしりと付いていました。それを洗い流し、さらにその奥にある封水筒を慎重に回して外しました。すると、そこから下水の強烈な臭いが立ち上がり、私の鼻を突きました。懐中電灯で管の奥を照らしてみると、何やら白っぽい固形物が管を塞いでいるのが見えました。最初、それはただの石鹸カスだと思っていましたが、割り箸で突いてみると、驚くほど硬い感拠がありました。時間をかけて少しずつ引きずり出してみると、それはなんと、数ヶ月前に失くしたと思っていたプラスチック製のヘアクリップでした。私の不注意で落としてしまったその小さなクリップが、排水の旅路を遮り、そこに家族全員の髪の毛や石鹸のカスが何層にも重なり合って、巨大な岩のような詰まりへと成長していたのです。犯人が分かれば、あとは徹底的に洗浄するだけです。私は重曹をカップ一杯分、排水溝の周りに山盛りにし、その上から温めた酢を一気に注ぎました。シュワシュワという音と共に白い泡が溢れ出し、クリップが去った後の配管に残っていた汚れを包み込んでいきました。十五分ほど放置した後、シャワーの勢いを最大にしてお湯を流し込むと、ボコッという大きな音と共に、溜まっていた水が一気に吸い込まれていきました。その瞬間、私は得も言われぬ達成感に包まれました。これまで私を苦しめていたのは、排水溝そのものではなく、自分の不注意と、それを見て見ぬふりをしてきた心の弱さだったのだと気づかされました。この戦いを経て、私の意識は大きく変わりました。今では、髪を洗うたびにヘアキャッチャーを確認し、週に一度は必ず中まで洗うことが習慣になっています。かつてはあんなに嫌いだった排水溝掃除が、今では自分と家を整える大切な儀式のように感じられます。水の流れが良くなると、不思議なことに家の中の空気も澄んで、私の気持ちも軽やかになりました。排水溝の詰まりは、私に「溜め込まないこと」の大切さを教えてくれたのです。